転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


23 エルフのお姉さん



 決意を胸に、ふんす! と鼻息も荒く決意表明をしていると、

「あらあら、目標が大きくて勇ましくていいわね。でも、男の子ならそれくらいの気概を持たないといけないわ」

 と後ろから、女の人がそう語りかけてきたんだ。
 だから僕はその声に答えようとその主の方に振り返ると、そこには丸い大きなメガネをかけたとても綺麗なお姉さんがいた。

 そのお姉さんは優しく微笑みながら、肩にかかった絹糸のような細くて美しいプラチナブロンドの髪をかき上げる。
 するとそこに現れたのは長く尖った耳、それはある種族の特徴として広く知られているものだった。

「エルフだ。ぼく、はじめてみた」

「あら、小さいのによく知っているのね。初めて見たと言っているのに解ったという事は、本で読んだのかな?」

「うん。いろいろなものがたりにかいてあったよ」

 実際は前世で読んだラノベのおかげで知っていたんだけど、物語には違いないから嘘は言っていない。
 ただこの世界の本を読んだ訳じゃないから、エルフと言うものの生態が僕の知っている通りかは解らないんだけどね。

「おねえさんも、ほんをかいにきたおきゃくさん?」

「いいえ、私はこの本屋の主よ。今日はご利用ありがとうございます、小さなお客様」

 なんと、このエルフのお姉さんはこの店の主人だった。
 それを聞いて僕はびっくりする。
 だってこの本屋さんって、店員さんはみんな制服を着ているのに、このエルフのお姉さんはこの街でよく見かけるような服を着ていたからだ。

「あるじってことは、このおみせのもちぬしだよね? なんでせいふく、きてないの?」

「ああそれはね、私は普段ここに居ないからよ。今日はたまたま店にいたんだけど、珍しく小さなお客さんが来店してくれたから声を掛けたのよ。坊やはどんな本をお探しかな? やっぱり勇者の物語かな。あれ、人気あるし」

「ううん、ちがうよ。それはこのあいだむらのとしょかんでよんだもん。きょうここにきたのはね、おとうさんにまどうぐのほんをかって
もらうんだ!」

「へぇ、その歳で魔道具の作成を。勉強家なんですね」

 エルフのお姉さんは話を聞いて、僕の頭をなでながら褒めてくれた。
 勉強家って訳じゃないんだけどなぁなんて思いながらも褒められた事自体は嬉しかったので、僕はエッヘン! と、胸を張る。
 そんな僕に笑顔を振りまいてから、エルフのお姉さんはお父さんの方へと向き直った。

「この子の親御さんですね。魔道具の本をお探しとの事ですが、一番初歩の解説本をお求めでしょうか?」

「あ〜初歩と言うと、魔道具を作った事がない子供向けの本の事だろうか? それならばルディーンはすでにその辺りは卒業している。こいつが求めてるのはその先の知識を得られる本だろう」

 お父さんの説明を聞いて、エルフのお姉さんは少し考えたような顔をして、

「お話は承りました。上の階の書庫からお持ちしますので、どうぞ此方へ」

 そう言って僕たちを来客用のソファーつきテーブルセットに案内した。

 そしてにっこり笑った後にカウンターまで行って、そこにいた男の人からファイルのようなものを受け取る。
 それをぱらぱらとめくった後、

「君、書庫からこれとこれを持ってきて頂戴。あっ待って、念のためこれもお願い」

 そう指示を出していた。
 どうやらこのお姉さん、店員さんに任せずに自分で僕たちを担当するつもりみたいだね。


 普通なら飲み物でも出されそうな雰囲気ではあるけどここは本屋、もしこぼす様な事があれば大惨事だ。
 だから特に何が出てくるわけでも無く、僕たちはソファーに座りながらエルフのお姉さんが帰ってくるのをぼ〜っと待っていた。

 しばらくしてワゴンに幾つかの本を積んだお姉さんが僕たちのテーブルまでやってきた。
 そしてそのワゴンから1冊の本を取り、僕たちの向かい側のソファーに腰掛ける。

「一番基礎の解説本をすでに読まれていると言う事なので、此方などどうでしょう? 中級とまでは行きませんが、少し難しいものの作り方が載っています」

 そう言ってお姉さんはお父さんに本を差し出した。。
 ところが、お父さんはその状況に困った顔をする。

「あ〜すまない。俺は魔法とか魔道具に関してはまったく解らないんだ」

「えっ? それではご子息は独学で魔道具作成を?」

 流石に僕が一人で本を読んで魔道具を造ったというのには驚いたみたいだ。
 何せこの世界は識字率が低くて、大人でも名前がかける程度の人が殆どで本を読める人となると本当に一握りの人だけなんだって。
 それだけに僕が普通の物語ならともかく、専門書とも言える魔道具の作り方が書かれた本を読んで作成までこぎつけたなんて想像もしていなかったんだろうね。

「うん。むらのとしょかんにまどうぐのほんがあったから、よんでつくったんだ。それでね、おもしろかったから、もっとすごいのをつくりたいなぁっておもったの」

「そっそうなの。なら、えっと、ルディーン君だっけ? この本はどうかしら」

 そう言うと、お姉さんはさっきお父さんに差し出した本を僕に手渡した。
 そこで、ペラペラと捲ってみたんだけど……。

「う〜ん、これってせっけいずどうりにつくるほんだよね? ぼく、まどうリキッドをつかって術式をかくほうほうのほんがほしいんだ」

「魔道術式ですか? う〜ん、ルディーン君が読むには難しすぎると思うんだけど」

 お姉さんはそう言いながらも、ワゴンから一冊の本を取り出す。
 こんな事を言いながらもしっかりと持って来ている所を見ると、将来を見据えて買っておいてはどうかとお父さんに見せるつもりだったのかも。

「これが魔道術式の本です。でも、かなり難しいわよ」

「ちょっとよんでみるね」

 難しいと脅されながら手渡された、魔道具の設計図を作るために必要な魔道術式の本を開いて軽く目を通す。
 その内容を読んで僕は確信した。

 魔道術式って、やっぱり回路図だよね。

 回転の魔道具の設計図を見た時になんとなく思っていたんだけど、小学校の時に習った電気の回路図によく似てるんだよね。
 例えば僕が作ったことがある回転おま道具だけど、基本は電池の変わりに魔石があってスイッチの術式記号でON/OFF、そして回転をするという命令を表す術式記号を組み込めば出来上がる。
 たぶんこれに抵抗を現す術式記号を加えれば回転速度を変えられるんじゃないかなぁなんて漠然と思っていたんだけど、どうやら本当にその通りだったみたいなんだ。

 その他にも色々な術式記号がこの本に書かれていて、その上後ろの索引で調べれば知りたいものが書かれているページがすぐ解るという親切な構成だたから、これはこれで結構使える本だなぁと僕は思ったんだ。
 でもね、僕としてはどうしても欲しかった内容がこの本には書かれていなかったんだ。

「う〜ん、まどうじゅつしきのせっけいずのかきかたはこれでわかるよ。でもさ、なんでこのほんには、ぞくせいのきごうがのってないの? ひのぞくせいにかえるきごうとかがないと、こんろとかつくれないでしょ?」

 そう、この本には無属性の魔石も魔力を人か水属性に変える属性変換の術式記号が書かれていなかったんだ。
 もしかしたらそれはもっと上級の本には書かれている内容で、この設計図の本をある程度使いこなせるようになって初めて進む内容なのかもしれないけど、タイマーとか一つの魔石での複数魔道術式起動の方法まで載っているのだから、これにはちょっと違和感を感じるんだよね。

 そう思って聞いてみたんだけど、そんな僕の言葉を聞いてエルフのお姉さんは固まってしまった。
 この様子からすると、どうやら僕がこの本を読みさえすれば高度な内容だから諦めるとか考えていたのかも。
 まぁ、僕だって前世の記憶に電気の回路図なんて物がなければ多分この本を斜め読みしただけでは解らなかったと思うけど、基本は同じようなものたったし記号ごとに何を表しているかがわかれば中学の理科で習って程度の知識でもある程度のところまではなんとかなりそうなんだよね。

「おねえさん、どうかしたの?」

 ただ、あまりに長く放心しているようだったので、僕はエルフのお姉さんに声を掛けた。
 そうしないといつまで経っても、僕の求めるものが出てきそうに無かったからね。


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